江戸時代の小説の系統、本の作り方。蔦屋重三郎が活躍した出版業界を解説

江戸時代

江戸で出版業界が発展したのは、江戸時代中期。

印刷機がなかった時代のため、様々な登場人物が協力して本を出版しました。

その中心となった人物が蔦屋重三郎です。

今回は蔦重が活躍した江戸時代の出版業界について解説します。

この記事のポイント
  1. 江戸時代の文化の中心地は上方から江戸へ移行
    →江戸時代中期になり、江戸での出版業界が発展
  2. 江戸時代は小説が発達した時代
    →江戸時代の小説は3系統に分かれる
  3. 江戸時代の本屋は商品や販売形態により呼び方が異なる
    書物問屋しょもつどいや」「地本問屋じほんどいや」「貸本屋かしほんや」など
  4. 印刷機がなかった江戸時代では多くの登場人物が協力して1冊の本を製作

江戸時代の本の販売点数の推移 中心地は上方から江戸へ

江戸時代初期の経済・文化の中心地は都があった京と大坂の上方でした。

含粋亭芳豊『菱垣新綿番船川口出帆之図』(大坂の発展を描いた)

そのため、1700年代前半は江戸の出版物は少なく、ほとんどが上方(京都と大坂)の出版物でした。

当時の江戸では、上方で出版された本(=くだり本)を販売する形態が普通です。

潮目が変わったのは、江戸が100万人都市となった、江戸中期頃(1750年頃)。

人口増加による需要増と独自の文化(洒落本や黄表紙)の発達にも背中を押され、江戸の本の販売も急増し、上方を上回りました。

ちょうど江戸に出版業界の中心地が移り始めた、寛延3年(1750)に生まれた2025年大河ドラマの主人公・蔦屋重三郎は時代の申し子と言えます。

江戸時代の小説の系統

江戸時代は上方・江戸ともに町人文化が花開いた時代です。

その象徴が小説のジャンルで、大きく発展しました。

この章では、江戸時代の小説の3系統をまとめます。

ちなみに、蔦屋重三郎があつかった小説のジャンルは「洒落本しゃれぼん」と「黄表紙きびょうし」です。

  • 仮名草子:江戸時代初期の小説の総称。婦人・子供向けに仮名で書かれたものが多い
  • 浮世草子うきよぞうし:上方を中心に町人社会の生活・風俗・世相などを写実的に描写した小説

    例)『好色一代男こうしょくいちだいおとこ』(井原西鶴いはらさいかく著、1682年)7歳で性に目覚めた世之介の一代記。
    左)井原西鶴 右)好色一代男

  • 洒落本しゃれぼん:短編の遊里小説。滑稽と通をえがく

    例)『仕懸文庫しかけぶんこ』(山東京伝さんとうきょうでん著、1791年)
    鎌倉時代の曽我兄弟を題材にとり、深川の遊里の実情をえがく
    左)山東京伝 右)『仕懸文庫』(東京都立図書館所蔵)

    洒落本は、倹約推進や風俗の是正のために出版統制をした松平定信の寛政の改革により弾圧

  • 滑稽本こっけいぼん:庶民の生活の滑稽さを描いた小説

    例)『東海道中膝栗毛』(十返者一九じっぺんしゃいっく著、1802~09年)
    江戸っ子の弥次郎兵衛と喜多八の東海道中での失敗滑稽談
    左)十返舎一九 右)東海道中膝栗毛

  • 人情本にんじょうぼん:町人の恋愛を描いた女性向けの読み物

    例)『春色梅児誉美しんしょくうめごよみ』(為永春水ためながしゅんすい著、1832~33年)
    主人公の丹次郎と3人の女性の恋愛話をえがき、江戸女性に愛読された
    『春色梅児誉美』 左)主人公の丹次郎 右)女性の一人、芸者の米八

    人情本は、寛政の改革同様に倹約推進や風俗の是正のために出版統制をした水野忠邦の天保の改革により弾圧。
草双紙くさぞうし:挿絵入りの子ども向きの小説。内容により表紙の色が違う
  • 赤本:表紙が「朱色」
    例)桃太郎・さるかに合戦などの絵本
  • 黒本:表紙が「黒色」
    例)浄瑠璃・歌舞伎・巷談などを翻訳した絵本
  • 青本:表紙が「萌黄色」
    黒本同様、浄瑠璃・歌舞伎・巷談などを翻訳した絵本
    徐々に、恋愛、遊郭、滑稽に特化していった

  • 黄表紙きびょうし:表紙が「黄色」
    風刺滑稽を主とする大人向けの絵本

    例)『金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめ』(恋川春町こいかわはるまち著、1775年)
    夢の中での栄華、愛欲話をえがく。春町は黄表紙の祖。
    左)恋川春町 右)『金々先生栄花夢』(東京都立図書館所蔵)

    黄表紙は、倹約推進や風俗の是正のために出版統制をした松平定信の寛政の改革により弾圧
  • 合巻ごうかん:黄表紙を数冊綴じ合わせた絵本

    例)『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦りゅうていたねひこ著、1829~42年)
    偽者の紫式部によるまがいものの「源氏物語」
    将軍・家斉を風刺したとして天保の改革で弾圧される。


    合巻は、寛政の改革同様に倹約推進や風俗の是正のために出版統制をした水野忠邦の天保の改革により弾圧。
  • 読本どくほん:勧善懲悪を説いた歴史的伝奇小説
    例)『南総里見八犬伝』(曲亭馬琴きょくていばきん著、1814~41年)
    安房里見家の八犬士による主家再興を描いた伝奇小説。
    馬琴は晩年に失明し、口述筆記させて完成させた。(全98巻、106冊)

    左)曲亭馬琴 右)南総里見八犬伝 

販売形態と商品の違いによる江戸時代の本屋

江戸時代の本屋には様々な種類がありました。

販売の形態と取扱商品によって、呼び方が異なります。

特に現代の本屋は、できあがった本を販売するイメージですが、

江戸時代の本屋は出版社と販売会社の両面をもってました。

各グループを下記にまとめます。

版元
本の出版元・発行元。江戸時代は企画・製作・印刷・製本・販売まで一貫して実施。
  • 書物問屋しょもつどいや
    学術書をあつかった本屋。いわゆるお堅い本。
    例)史書、漢籍、医学書など
  • 地本問屋じほんどいや
    娯楽的な本をあつかった本屋。大衆向け。
    「地本」=江戸生まれの出版物=地物の本
    例)草双紙、読本、浮世絵

    蔦屋重三郎は黄表紙や浮世絵を取り扱う地本問屋
  • 貸本屋かしほんや
    仕入れた本を客にレンタルし、料金をとった本屋。
    江戸時代の本は高価だったため、庶民にはレンタルが一般的。
    レンタルの場合は、かけそば1杯分くらいの料金。
    購入の場合は、レンタルの数十倍。



    貸本屋は大風呂敷に多くの本を包んで、背負って得意先を訪問した。
    得意先例)商家、遊女屋


    貸本屋

    蔦屋重三郎も貸本屋からスタート。
    遊女屋へ頻繁に通っていたことから他にはない「吉原細見」の作成に成功。
  • 板木屋はんぎや
    本の版木を作っていた職人集団が、自らも出版に進出した本屋。
  • 世利本屋
    小売本屋と客との間に入って、古本の取次を行った本屋。
  • 暦問屋
    暦の印刷・販売を独占した本屋。
    ほかの本屋とは趣が異なる。

江戸時代の本をつくる工程

企画から販売まで一括した江戸時代の本屋ですが、実際に本をつくる工程を紹介します。

また、江戸時代では現代とは異なり、印刷機がなかったため、多くの登場人物が協力して1冊の本を製作していました。

【本ができるまでの流れ】

  1. 企画・執筆依頼
    版元から作者へ依頼
山東京伝作『堪忍袋緒〆善玉』(山東京伝に執筆を依頼する蔦屋重三郎) 早稲田大学図書館より

  1. 草稿の作成
    作者により実施。
    作者から絵師への要望をまとめる。
  1. 木版を彫る元の版下絵の作成
    絵師により実施。
葛飾北斎の下絵

  1. 検閲
    本屋仲間により実施。

  1. 版木を彫る
    彫師が実施。

歌川国貞(初代)/画『今様見立士農工商 職人』に版下絵をはった版木を彫る様子が描かれている
江戸東京博物館所蔵
十返舎一九作画 「的中地本問屋」の彫師の様子 国立国会図書館蔵
  1. 完成した版木から紙に摺る
    刷師が実施。
十返舎一九作画 「的中地本問屋」の摺師の様子 国立国会図書館蔵
  1. 製本・販売
    版元が実施。
葛飾北斎が描いた蔦重の店「耕書堂」の様子。
製本作業をしている様子も描かれている。

まとめ

以上、江戸時代の出版業界について解説しました。

江戸時代初期は上方が文化の中心でした。

しかし、中期頃に入り、江戸の人口が100万人を超えたことで流れが変わります。

江戸が文化の中心となり、

小説は「洒落本」「黄表紙」へと発展していきました。

当時の本屋は企画から販売まで担当しており、絵師や彫師など多くの登場人物が協力して1冊の本を作ってました。

その中で、大河ドラマの主人公・蔦屋重三郎はプロデューサー的な役割である版元として活躍した人物です。

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