新選組副長・土方歳三が詠んだ俳諧の発句集~『豊玉発句集』とは?~

幕末

2024年4月に公開された劇場版名探偵コナン『100万ドルの五稜星』の公開で新選組副長・土方歳三の人気が高まっています。

「鬼の副長」という「武」のイメージが強いです。

そんな土方歳三ですが、文化人としての顔もあり、『豊玉発句集ほうぎょくほっくしゅう』としてまとめています。

土方歳三の句といえば、司馬遼太郎の『燃えよ剣』の中で「知れば迷い知らねば迷わぬ恋の道」とオマージュされたり、沖田総司に「下手だなあ」とからかわれるシーンが有名です。

この記事では土方歳三の人間味が垣間見える『豊玉発句集』について書いていきます。

土方歳三義豊

【豊玉発句集のポイント】

  • 土方歳三の人間味が見えて面白い
  • 春の句が多い
  • 「月」と「梅」の句が多い
  • 有名な「しれば迷ひしなければ迷はぬ恋の道」はボツ

「武」のイメージの土方歳三の刀について知りたい方はこちらをご覧ください↓

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土方歳三の俳号は本名から一字とった「豊玉」

土方歳三は天保6年(1835)に武蔵国多摩郡石田村(東京都日野市)に生まれました。

京都で新選組を立ち上げ、蝦夷ヶ島(箱館)にまで渡り最期まで徳川幕府のために戦った人物です。

「鬼の副長」のイメージが強いですが、実は周囲には文化人が多く、土方歳三自身も俳諧をたしなむ文化的な顔がありました。

祖父や兄の影響を受けて、自然と俳諧をたしなみ、自らの俳号(別名)を豊玉ほうぎょくと名乗ります。

この「豊玉」という雅号は土方歳三の本名から一字とってつけられました。

本名は、

土方歳三義豊よしとよ

土方が姓、歳三が通称、義豊が諱(本名)です。

江戸時代は本名を名乗らないのがルールでした。

土方歳三の豊玉発句集とは何か?

豊玉発句集は簡単に言うと、土方歳三が自分の自信作をまとめた一冊です。

当時は、句会でほめてもらった句を書き留めて、のちにまとめるというのが常識でした。

土方歳三も例にもれず、まとめたのです。

41の句が収録

『豊玉発句集』には土方歳三の41句が収録されています。

(内1句はボツ)

41句の内訳は以下のとおりです。

春の句が多いですが、これはまとめた時期が影響したと考えられています。

また、「月」と「梅」について詠んだ句が多いです。

新選組の発足前の多忙な時期

土方歳三が豊玉発句集をまとめたのは「文久三亥ノ春」と表紙に記載があります。

文久3年(1863)といえば、土方歳三が浪士組(新選組の前身)として京都に上洛した年のことです。

1月初旬に浪士組募集があり、1月20日には締め切り。

出発は2月8日ととてもタイトなスケジュールでした。

すなわち、旅の準備で忙しく、手近にあった句を取りあえず集めてたのが『豊玉発句集』です。

あわただしさの中でまとめたため、春の句が多く、『燃えよ剣』で沖田総司に「下手だなあ」とからかわれるような駄作も含まれました

そのせいで、「土方歳三=下手」とレッテルをはられました。

土方歳三ファンには完璧ではない人間味がある一面が垣間見れてうれしいことですね。

土方歳三の豊玉発句集~月に関わる句~

豊玉発句集には月に関わる句が5句も収録されています。

【豊玉発句集に収録される月に関わる句】

19―三日月の水の底照る春の雨

20―水の北山の南や春の月

22―山門を見こして見ゆる春の月

35―公用に出て行みちや春の月

36―あばらやに寝てひてさむし春の月

※数字は収録順


19―三日月の水の底照る春の雨

春の雨といえば、霧のように細かい小ぬか雨。

そこに三日月がかかって見える様子がうかびあがります。


20―水の北山の南や春の月

のどやかな田園風景に月が見える。

土方歳三の多摩・石田村の風景でしょうか。


22―山門を見こして見ゆる春の月

静かな寺の山門の上にかかる月。

落ち着いたのんびりとした風景を感じます。


35―公用に出て行みちや春の月

「公用」=「公事」として「幕府の仕事」=「新選組の仕事」と語られることがありますが、新選組はまだ存在していません。

大切な用事に出かける道々にふと見上げると月が見える、厳かさとやさしさが絡み合った様子です。


36―あばらやに寝てひてさむし春の月

「あばらや」=「荒ばら家」

「ひて」=「嚔る」=くしゃみをする

また寒い春の夜にボロ屋でうたた寝をしながら、「くしゅんっ!」とくしゃみをする風情が想像できます。


土方歳三の豊玉発句集~梅に関わる句~

豊玉発句集では月と同じく、梅に関する句も5句と多く収録されています

【豊玉発句集に収録される梅に関わる句】

12―人の世のものとは見へず梅の花 

14―年々に折られて梅のすがた哉 

28―咲きぶりに寒げは見へず梅の花 

31―梅の花壱輪咲きても梅はうめ 

41―梅の花さかるるだけに咲くとちる 

※数字は収録順


12―人の世のものとは見へず梅の花

梅の花は白梅のことをいうのでしょう。

梅の花の美しさは汚い人の世(この世)のものとは思えないといった意味です。


14―年々に折られて梅のすがた哉 

庭を見ると、たくさんの人に枝を折られておもしろく梅が咲き誇っている様子。


28―咲きぶりに寒げは見へず梅の花

まだ寒さが厳しいが、梅の花の咲きぶりから春を感じ始めます。


31―梅の花壱輪咲きても梅はうめ

どんな状態でも梅は梅の花とそのままの意味。

理屈の句という因果関係を詠んだ駄作の句です。

理屈の句の例)障子を開けたら梅の花があった


41―梅の花咲るるだけに咲くと散

こちらもそのままの意味で、理屈の句。

すなわち駄作の句です。


土方歳三の豊玉発句集~超有名の句はボツ~

豊玉発句集に収録されている中で非常に有名な句があります。

10ーしれば迷ひしなければ迷はぬ恋の道

司馬遼太郎の『燃えよ剣』の中で「知れば迷い知らねば迷わぬ恋の道」と少し形を変えて登場したことで有名になりました。

鬼の副長が恋の句を詠んだというのがとても面白いです。

「何か意外!」という感想をもつ方も多いのではないでしょうか。

しかし、

もっと面白いのは、この句がボツだったことです。

見せ消ちといって、字句を訂正するのに、もとの字もそのまま読める形で消している

これは当たり前の内容を詠んだだけで理屈の句であり、駄作です。

本人も気づいたのでボツにしたのですが・・。

ところが、お気に入りでどうしてもこの句を使いたかったようで、ベースにした句を収録しています。

しれば迷ひしらねば迷ふ法の道

鬼の副長にも可愛らしい一面があったんですね。

土方歳三の豊玉発句集~桜田門外の変の衝撃を受けて詠んだ句~

32ー井伊公君

ふりながらきゆる雪あり上巳こそ 豊玉

安政7年(1860)3月3日、江戸城桜田門外にて大老・井伊直弼が暗殺された桜田門外の変が起きました。

この大事件を受けて詠んだ句ですが、解釈が2通りに分かれて面白いです。


解釈①:桜田門外の変で大老・井伊直弼を暗殺した水戸・薩摩浪士をたたえた、土方歳三の攘夷思想のあらわれ。

解釈②:井伊直弼の無念を思い、詠んだ追悼句


どちらか決定することは非常に難しいです・・・。

ただ、当時は武士、農民関係なく、攘夷思想が全国的に広がっていたため、解釈①が有力ではないでしょうか。

いずれにしても解釈がわかれるのが面白いです。

まとめ

以上、土方歳三の豊玉発句集について解説しました。

新選組・副長として京都で、箱館戦争では旧幕府軍の陸軍を率いて活躍した「武」の人として有名です。

実は「豊玉発句集」をまとめるという文学的な一面がありました。

『豊玉発句集』をみると、一人の人間としての土方歳三の姿がうかびあがり、その魅力がさらに高まります。

「武」のイメージのである、土方歳三の刀についてはこちらの記事も参考にしてください。

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